2026.09.29

「空港の前後」の人流に着目。三菱地所が挑む空港と地域をつなぐデータ活用

インタビュー有り ミセシル

国内の空港運営を牽引する三菱地所株式会社・空港事業部。同社は高松空港、富士山静岡空港、下地島空港、新千歳空港を含む北海道内7空港など、全国10空港の運営に携わる。今回は、ミセシルを活用したエリアマーケティングを通じた空港の利用者拡大やエアライン誘致に繋がるデータ活用の背景と成果について、三菱地所株式会社より空港事業部の室岡様と石川様にお話を伺いました。

グループ空港を包括支援。三菱地所・空港事業部のミッション

―はじめに、貴社の空港運営に関する事業内容についてお伺いできますでしょうか?

室岡氏: 三菱地所は、2018年の高松空港への参画を皮切りに、富士山静岡空港、北海道内7空港のコンセッション運営に携わってきました。また、沖縄県宮古島市の下地島空港ではターミナル運営にも参画し、現在は全国10空港の運営に携わっています。

当社は、空港運営を通じて地域を活性化することを目指して活動しております。最近は、訪日インバウンド需要の取り込みを成長戦略の柱として、交流人口の拡大に向けた様々な施策を展開しています。

三菱地所株式会社 空港事業部 マネージャー 室岡 延寛 氏

 

―続いて、空港事業部様の役割や、普段担当されている業務範囲について教えていただけますか?

室岡氏:私たちの部署では、日々の現場運営を担う空港運営会社をバックアップする立場として、各社の事業推進支援を行っています。

当社の空港事業における大きな特長の一つが、各空港のエアライン誘致を横断的に支援する機能を有している点です。一般的には、各空港の運営会社が自治体などと連携して個別にエアラインへの営業活動を行いますが、これに加えて空港事業部でも空港グループとして営業を行うことで、路線誘致や利用促進の機会を拡大しております。

その中で、私はデジタルを活用した支援を行っています。最近は、空港利用者の行動分析、業務効率化に取り組んでおり、AIの活用なども開始しているところです。

石川氏:私も室岡と同様に、特定の1空港にとどまらず、全10空港の施策や業務全般の支援を行っています。

 

「なぜミセシルを選んだのか」― ミセシルだからこそ叶った”空港独自のニーズ”

―貴社には、2021年頃からミセシルの前身サービスをご利用いただいております。導入当時の課題や、他社ツールと比較検討された中での選定理由についてお聞かせください。

 室岡氏:2021年は、コロナ禍の真っただ中にあり、航空・観光需要の先行きが極めて不透明な状況でした。一方で、将来の需要回復を見据えた準備ができるように、グループ空港の状況を客観的に把握したいと考えており、「今、何が起こっているのか」「その地域はコロナ前と比べてどのように変化したのか」といった視点で分析できるデータを求めていたのです。

そこで、空港が活用できるデータを一から検討する中で、空港利用者だけでなく、地域を訪れる人々のニーズを捉えることに着目しました。つまり、「利用者が空港に来る前にどこで何をしていたのか」「到着後にどこへ向かったのか」といった、空港を起点とした前後の行動を可視化することで、空港利用者の旅の目的や地域との関わり方をより深く理解できるのではないかと考えたのです。

 

― 導入検討にあたり、どのような点を評価されたのでしょうか?

室岡氏:複数のサービスも含めて多角的に検討を行いました。その中で「ミセシル」の採用に至った理由は主に3点あります。

1.集客施設分析としての専門性:

空港というと、航空機を利用するお客様のための施設というイメージが一般的ですが、実際には商業施設や飲食施設などの非航空系収益が重要な収益源となっています。また、航空機を利用しない地域のお客様が立ち寄るケースも多く、集客施設としての側面も持っています。

そのため、商業施設や集客施設における人流分析・マーケティング支援に強みを持つサービスであったことは、私たちにとって大きな魅力でした。

 

2.柔軟なレポートカスタマイズ性:

空港ごとに異なる課題や仮説に合わせて分析を行うため、柔軟なレポートカスタマイズが可能であり、さらに迅速に対応いただけたことも高く評価したポイントでした。

 

3.社内での高い実績と信頼:

当時、すでに三菱地所グループ各社においてミセシルの活用実績があり、利用者からの評価も非常に高かったことから、安心して導入を検討することができました。

 

特にレポートのカスタマイズにおいて驚いたのは、事業上必要とする独自ターゲットの定義やタグ付けをできたことです。「空港を起点とした地域間の移動」や「旅客」「非旅客(見送り・迎えなど)」などを可視化できたことは非常に大きなメリットでした。

コロナ後の需要回復を捉え、活用が加速- 変化を知ることから、提案は始まる -

―2024年頃から社内でのミセシル活用が一気に加速した印象があります。きっかけは何だったのでしょうか?

室岡氏:この背景には、コロナ禍を経て国内外の人の移動が本格的に回復してきたことがあります。2023年頃から、各エアラインで運休していた路線の再開や運航便数の回復が進む中、私たちは「どの地域で需要が戻ってきているのか」を把握するためにミセシルを活用してきました。

ミセシルは、同一空港の時系列比較に加え、当社グループ以外の空港の利用者動向も分析できるため、地域ごとの需要回復状況や変化を客観的に把握することができます。こうした分析を通じてマーケット全体の動向を捉え、その結果はエアラインとの復便協議における基礎資料の一つとなっていました。

2024年に入ると、多くのエアラインで復便がほぼ完了し、次の段階として、コロナ禍を経て変化した旅客ニーズや航空業界を取り巻く環境を踏まえた需給適合が重要になってきました。その中で、自空港が所在する地域の需要がコロナ前後でどのように変化したのかを分析することは、エアライン各社に対する説得力のある提案につながってきたと感じています。

 

―現在の社内での利用体制や、具体的な利用範囲について教えてください。

室岡氏:現在は、空港事業部が分析レポートを作成し、各空港運営会社がそれぞれの課題解決に活用する体制を構築しています。

 

― 分析業務はどのように進められているのですか?

室岡氏:基本的には、私や石川を中心に、ミセシルのデータを集計・分析し、レポートとして整理しています。

その中で意識しているのは、分析して終わりではないという点です。実際の営業活動や施策実施の結果について現場からフィードバックを受け、その内容を踏まえて分析手法やデータの抽出条件を見直しています。

また、「こういった切り口で分析したい」「このエリアの動向を詳しく見たい」といった現場からの要望にも随時対応し、必要に応じて分析軸を追加しています。こうしたサイクルを継続することで、データ活用の精度向上だけでなく、エアライン営業や空港運営に関する実践的なナレッジの蓄積にもつながっています。

 

点から「線・面」の分析へ。町丁目レベルのデータが明かした真実

―具体的な分析手法について伺いたいと思います。普段はどのような視点で施設利用の分析を行われていますか?

室岡氏:近年は、国内旅行需要の回復・拡大を背景に、新規路線の提案や既存路線の利用促進に向けた施策立案などで活用する機会が増えています。

既存利用者の分析においては、「どのようなお客様が利用されているのか」といった属性(年代・性別等)を把握することができます。また、「地元以外の地域からお越しのお客様が、どの時間帯に空港を利用しているのか」といった時間軸での分析も可能です。

実際には、当社の関与空港に乗り入れている関西エリアの各空港から当該空港を利用する路線の商圏を分析することで、従来は見えていなかったホワイトスペース(未開拓のエリア)を発見できたケースもあります。そのエリアに対するプロモーションをエアラインに提案し、利用者獲得につながった実績も出ています。

また、新規路線誘致に向けては、航空機や鉄道などの公共交通機関を乗り継いで移動する方々の動向を分析することで、利用者の属性や利用時間帯といった切り口から需要の推計も行っています。これらの分析結果を基礎データとして、各エアラインの戦略や就航状況も踏まえた提案を行うことで、先方からも高い関心を寄せていただいています。

 

― 目的地への移動や二次交通に関する「点ではなく線の分析」も実施されているそうですね。

室岡氏: はい。地域のゲートウェイでもある空港にとって、地域の活性化のためにも二次交通の利便性向上は重要な課題です。「空港到着後にどこに向かったのか」という移動実態が分かれば、空港発着バスの運行路線やダイヤの最適化などの協議・提案にも活用できます。

 

―町丁目レベルでの分析を実施された目的と、得られた結果についても教えてください。

室岡氏:これから深堀りを進めていく部分となりますが、空港という点から地域という面に視野を広げた分析に挑戦しています。従来の市区町村単位の分析よりも細かい町丁目レベルで地域を訪れる人々の回遊パターンなどを分析することで、地域の起点となる観光コンテンツと来訪者の回遊パターンとの関係性が分かれば、地域の魅力をより効果的に発信する施策にも活用できるのではないかと考えています。初期の分析では、空港到着後の目的地ごとに回遊行動や立ち寄り先に一定の特徴が見られることが分かり始めています。

データ共有がもたらした「肌感覚」とのギャップと共感

―定量的なデータが見えてきたことで、これまでの「肌感覚」と比べてどのような発見がありましたか?

室岡氏:「やはり想定通りだった」と確信に変わる部分もあれば、新たな発見につながる驚きもありました。

分かりやすい例では、属性分析において、空港全体では40〜50代のお客様がボリュームゾーンとなっていますが、LCC(格安航空会社)が発着する時間帯に限ると、20〜30代の若年層の割合が大きく増加することが分かりました。時間帯ごとに分析できるようになったことで、ターゲット層が大きく変化することが見えてきたのです。

こうしたデータをエアライン各社に共有すると、非常に高い関心を持っていただけます。実際に、「これまで把握できていなかった潜在顧客の存在や行動がより明確になり、Web広告やSNSでの情報発信に活用できる」といった評価もいただいています。

 

―社内でのデータ活用や、提案資料の作成プロセスにはどのような変化がありましたか?

室岡氏:ミセシル導入前は、データ分析を行う際に、まず必要なデータをどこから収集するかを検討し、情報を集めるところから始めなければなりませんでした。そのため、提案に至るまでに相応の工数がかかっていた印象です。また、使用できるデータも官公庁の統計データや現地で配布する紙アンケートの結果など、使いこなすのが難しいものが多い状況でした。

ミセシルを導入してからは、「同じ条件で、過去と比較可能なデータを定常的に取得できる」環境が整いました。これにより、データ分析の時間が短縮され、よりスピーディかつニーズに合わせた提案ができるようになり、質の向上にも寄与していると感じています。

 

今後の展望と、人流データ検討企業へのアドバイス

 ―今後、ミセシルを活用して挑戦したいことや期待されていることはありますか?

室岡氏:今のデータをAI分析できる環境を整え、データ分析から得られる「インサイト(深層心理や隠れた課題)」を増やすことに挑戦しています。現状は「私たちが設定した課題」に基づいてデータを分析していますが、今後はAIによって、自分たちでは気づいていなかった需要変化や新たな路線機会、販促施策のヒントを見つけられるような活用へと進化させたいですね。

 

―最後に、人流分析データの導入・活用を検討されている企業へ向けてメッセージをお願いします。

室岡氏:人流データは、単に人の動きを把握するためのものではなく、顧客理解を深め、新たな価値創出や意思決定の高度化につながる可能性を持っていると考えています。

その活用にあたり、私たちは二つのことを大切にしています。

一つ目は、「何に課題を感じているのか」「何を明らかにしたいのか」という目的を明確にすることです。データそのものが答えを持っているわけではなく、解決したい課題があってこそ、その価値が発揮されます。

二つ目は、データを提供する側と活用する側が密にコミュニケーションを取ることです。現場での活用結果やフィードバックをもとに分析やアウトプットを継続的に改善していくことで、より実践的で価値のある示唆を生み出すことができます。

これらは一見するとシンプルで基本的なことですが、人流データの価値を最大化し、実際の施策や意思決定につなげていくうえで欠かせない要素だと考えています。

―本日は貴重なお話をありがとうございました。広域な移動データのトラッキングや、町丁目レベルでの分析を活かした施策展開、二次交通の最適化といった取り組みは、地方空港の活性化のみならず、今後の地域創生における理想的なデータ活用モデルと言えます。今後も「ミセシル」とAIの組み合わせによる新たな価値創出や、柔軟なカスタマイズ支援を通じて、三菱地所様が推進される空港価値の最大化とさらなる事業革新を支援してまいります。

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